水中の哲学者たち/永井玲衣

水中の哲学者たち/永井玲衣

わからなさに向き合うこと。他者とともに考えること。

哲学者で、他者とともに考える場である「哲学対話」を長年実践している永井玲衣さんが、生活の中で唐突に出くわす哲学的瞬間や、哲学対話の場で経験したこと、考えたことなどをエッセイのかたちで綴った『水中の哲学者たち』。

「哲学」を辞書で引くと、そこには「世界・人生などの根本原理を追求する学問」と書いてあります。究極的に言えば、「なんで?」と問う営みのこと。

そして、そのわからなさは、共に考える他者を必要とします。永井さんの主な活動のひとつである「哲学対話」とは、簡単には答えが出ない哲学的なテーマについて、他者と一緒にじっくり考え、聴き合うこと。永井さんはこれまで、小学校や公民館、会社、お寺など全国さまざまな場所で、小学生から大人までのさまざまな人と、「わからないこと」を真ん中に置いて、共に考える対話の時間を過ごしてきました。

哲学対話の「問い」は、たとえばこんなもの。(本書に出てくる「問い」より抜粋)

約束は守らないといけないのか?
おとなのこどもの違いは?
死んだらどうなるの?
友だちの人生を歩めないのはなぜ。

日常の延長線上にありながら、明快な答えがないこれらの「問い」に対して、哲学対話の参加者は、自分の考えを言葉にし、他者の言葉に耳を傾け、一緒に考えることを試みます。

自分の考えを言葉にして伝える。他者の話をさえぎらず、否定せずに、最後まで聞く。そのどちらもが、実はとてもむずかしいこと。永井さんがこれまでに立ち会ってきた哲学対話でのやりとりが本文にもたくさん記されていますが、それを読むと、対話の面白さとむずかしさ、たとえうまく話せなくても最後まで言葉にしようとすること/最後まで聞こうとすることの大事さ、他者と一緒だからこそたどり着ける場所があることなど、たくさんの気づきがありました。

タイトルにある「水中」とは、何かを深く考えることは、しばしば水中に深く潜ることにたとえられることから。よく見るとこの世界は、簡単には答えが出ない「問い」だらけ。そんな「問い」に出会ったときこそ、世界を、他者、自分自身を知るチャンスであり、ひとりでは途方にくれてしまうような「問い」には、誰かと一緒に潜って考えることがきっと必要なのだと思います。

「わからなさ」や「うまくいかなさ」を前にしたとき、怖がったり、あきらめるのではなく、「ままならない世界/他者/自分を認め、ままならないまま一緒に味わう」という世界への向き合い方を、永井さんが日常から紡いだ言葉をもって教えてくれる1冊。

永井玲衣(ながい れい)
学校・企業・寺社・美術館・自治体などで、人びとと考えあう場である哲学対話を幅広く行っている。Gotch主催のムーブメント「D2021」などでも活動。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)。連載に「世界の適切な保存」(群像)「ねそべるてつがく」(OHTABOOKSTAND)「これがそうなのか」(小説すばる)「問いでつながる」(Re:ron)など。第17回「わたくし、つまりNobody賞」受賞。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

水中の哲学者たち/永井玲衣

著者:永井玲衣
出版社:晶文社
ページ数:268ページ
仕様:四六判並製

水中の哲学者たち/永井玲衣
水中の哲学者たち/永井玲衣
¥1,760
9784794972743
在庫:3

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