2022
HAUの今季のテーマは、“dish & clothes”。
デザイナーの藁谷さんがコレクションのアイデアを考える際、ふと目にしたのが、アメリカの古き良き農村風景を描き続けた画家“グランマ・モーゼス“の作品でした。
グランマ・モーゼスは、アメリカを代表する素朴画家。リウマチで手が思うように動かなくなってから絵を描き始め、本格的に筆を取ったのは彼女が75歳の時でした。ゆるやかな田園での農場風景に代表される彼女の作品からは、当時の人々の日常生活の様子はもちろん、地域行事や祝宴などでの装いにもあたたかな幸せや豊かさが伺えます。
藁谷さんは今季のコレクションを、このモーゼスの描く「決して華美ではない、自然の恵みや本来の豊かさが伝わる農村風景」から着想を得たとのこと。
今回は、その牧歌的な農場生活の世界観を汲んだお洋服のご紹介と、藁谷さんの制作に対する考えやモーゼスの絵画との関係性に迫るインタビューをお届けします。
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contents
Item 1 | アンティーククロスのような大きな襟のシャツ |
Item 2 | 絵の中の少年が着るようなノルディック柄ニット |
Item 3 | 羊のようなもこもこジャケット |
Item 4 | 首や肩を温めつつ作業がしやすいネックウォーマー |
Item 5 | 滑らか生地のメルトンコート |
Interview |
Present
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Model:Tomoe(Vithmic Model Agency)/Photo:Haruki Anami/HairMake:Rurika Amada
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アンティーククロスのような大きな襟のシャツ
“collier”というのはフランス語でネックレスのこと。
ふわりと肩に乗った大きな襟は、名前の通り首飾りのよう。
襟の縁に手作業で施されたレースは、アンティークのクロスからヒントを得ておこしたオリジナルの柄だとか。
農場生活を送る女性のフォーマルウェアを連想させるような、クラシカルなブラウスです。
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絵の中の少年が着るようなノルディック柄ニット
首の詰まった襟付きのノルディック柄のニットは、今季のコレクションの中でも象徴的な一枚。
メープルシロップ作りなど冬の地域行事に勤しむ少年たちが着ているイメージでデザインが考案されたそうで、長閑であたたかな風合いが感じられます。
ジャケットとボトムに "idyllic" を合わせれば、絵画から飛び出してきたようなトラディショナルなスタイルが完成!
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羊のようなもこもこジャケット
羊のように優しい丸みのあるシルエットのこのジャケットは、
中にも着込めるようにとゆとりのあるサイズ感。
モーゼスとともに農場で過ごした羊たちも同じように、
こんな暖かな毛を身に纏って、寒い季節を乗り越えたのでしょうか。
アウターとしてだけでなくカーディガンのようにもさっと羽織れる、手軽さと着やすさです。
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首や肩を温めつつ作業がしやすいネックウォーマー
細目のラムウールを使ったネックウォーマー。
首や肩を温めつつ手元の作業もしやすいという重宝品です。
ちょっとした外出やおうちでの作業中にも、
楽に被って気分を上げてくれるアイテム。
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滑らか生地のメルトンコート
軽くて柔らかいウールメルトン生地のコート。
ポケットはしっかり物が入るサイズ感なので、バッグを持たずに行くお出かけや散歩にもおすすめ。
裏地はあえてつけず中に着るものであたたかさを調節できます。前開きはボタンでなくピンで留めて、ポイントに。
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モーゼスの描く絵に向き合うと、
忘れていた何かを思い出すような、不思議な懐かしさが感じられます。
それは故郷の山々だったり、
子どもの頃に初めて絵の具に触れた時の沸々とした高揚だったり。
しかし、田舎を故郷に持たない人にも同様に湧き上がる郷愁は、
「電灯で夜を昼に変えてしまう代わりに仄かなランプで戸外の闇を受け入れる、
そんな日々が自分たちの代にはなくとも、かつてはあった」
そういう懐かしさから来るものなのかもしれません。
HAUのデザイナーの藁谷さんは、「ゆったりとした時間の流れや本来の人間らしさが希薄になりつつある今だからこそ、暮らしそのものを改めて見つめ直そう」と、その思いが具現化されたモーゼスの世界観から、今季のコレクションのアイデアを得たそうです。
—— HAUではここまでテーマを絞り込んでコレクションを作るのが初めて
藁谷:モーゼスの絵には、農場の風景以外に季節のお祝い事を大事にしている絵が多く、洋服などもTPOを大切にしていて、そういうところが素敵だなと感じました。
特にお気に入りなのが、「シュガリング・オフ(メープルシロップ作り)」という絵。
メープルシロップ作りは子供から大人までやる冬の通例行事のようで、その絵の中で作業する少年のシルエットや雰囲気から、“farmer”というパンツとコートを考えました。
また今季のコレクションの中でも象徴的な、襟がついたニットの”nordic”も、大人の装いからというよりは、こういった絵の中に出てくる少年が着ていそうだなというイメージから、作ったものです。
→ HAU コート "farmer"
→ HAU パンツ "farmer"
あともう一つ気に入っている作品があって、それが「キルティング・ビー」というみんなが同じテーブルについて、食事も楽しみながらキルトを縫っているあたたかな絵。
そこに出てくる女性たちは、ブラックワンピースにエプロンを身につけていて、それにインスピレーションをもらったのがワンピースの“classical frill”でした。HAUではブラックワンピースを作るのが初めてだったんですが、モーゼスの絵のお祝い事とか行事の中には度々ブラックワンピースが登場するので、やはり装いとしても特別だなという感じがして。それをHAU流に落とし込んでデザインしてみました。
そして絵を見ていて印象に残ったのが、この当時の女性はパンツを履かないということ。基本的に女の人はボリュームのあるスカートにエプロン姿という格好を普段からしていて、そこから着想を得たのが“idyllic”というタックのロングスカートです。今回はそのボリューム感にもこだわって、途中まで裏地をつけて、あえてそのシルエットが忠実に出るようにしました。
HAUではここまでテーマを絞り込んでコレクションを作ること自体初めてだったんですが、テーマを絞り込んだことによって、シンプルだけでない奥行きが出たので、服作りとして楽しく取り組むことができたと思います。モーゼスの絵も何か対象を限定した絵でなく風景なので、こちらの想像力を掻き立てる余地があって、コレクション全体にも物語のようなまとまりが生まれました。
→ HAU ジャケット "idyllic"
→ HAU スカート "idyllic"
—— 服は自分にとって「処方箋」のような存在
藁谷:私は土日にしっかり休まないと平日仕事をすることができないんです。休みの日はインスタとかもできるだけ見ないように心掛けています。普段の生活の忙しさから、なかなかゆっくりした時間や本来の人間らしい豊かさみたいなものを感じるのが難しい中、大事なのは自分の気持ちを整えることなんじゃないかと思っていて。自分自身を整えたり、自分の軸を確認したり、服もそれを手助けするものの一つかなと感じています。若い時は、これかわいいとか着てみたいとか100%の好奇心で選んでいたり、自己アピールの手段として使っていたものが、この年齢になってきて、どんな時も普段の自分でいれる着心地の良さやお化粧したかのように気持ちを高めることができるデザインとか、そういうところを重視するようになってきています。一言で言うと、服は「処方箋」のような存在かな。今回はテーマを考えるに当たって、そういう部分にも向き合いながら、考えました。
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デザイナー 藁谷 真生(わらがい まお)
1981年、東京生まれ。エスモード・ジャポンを卒業後、アパレルメーカーにて約8年にわたり数ブランドのデザインを担当。2011年、自身のブランド「BLANKET」を設立。その後、第2子の出産をきっかけに生活のリズムが変わり、これまでと同じペースで続けていくことが難しくなり、子どもが少し手を離れ始めた2018年からクラスカ発のアパレルブランド、「HAU」を立ち上げ、デザイナーを務めている。
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